風と雪

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香川県の歌姫・かんのめぐみさんについて

私は香川県で活動していますが、同じ香川県で活躍しているアーティストの紹介をしたいと思います。かんのめぐみさんという方です。

 

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香川県で活躍する介護福祉士兼シンガーソングライターのかんのめぐみさん。今回の記事では、かんのめぐみさんという知る人ぞ知るアーティストについてまとめたいと思います。

 

かんのめぐみさんは1991327香川県高松市生まれです。

 

香川短期大学という短期大学を卒業して介護福祉士の免許を取得しています。

高校時代からギターの弾き語りのスタイルで音楽活動を行っているかんのめぐみさん。

 

介護の仕事をしながら、そこでお年寄りの方を中心に人と触れ合っている際に着想を得て、曲作りをするのだそうです。

 

実際、かんのめぐみさんの歌は「人間」を題材にしたものがほとんどで、人間のドラマを音楽にして伝えていっているということです。

 

「言葉では伝わりにくい思春期の独特の感情なども音楽にすると伝わった」と語っており、自分の中にある捉えきれない感情などを表現するのに音楽は打ってつけだったようです。

 

そして介護の方ですが、高校時代に参加した職業体験で介護の仕事に興味を持ったそうです。

お年寄りとコミュニケーションを取るのが楽しく、介護の仕事をしながら音楽を平行して活動していこうと決めたということでした。

 

短期大学卒業後、2011年に介護の仕事を開始しますが、不規則な勤務形態や書類などの仕事が多忙で、体調面での問題や音楽活動を続けられなくなりそうだったため、3年で介護の仕事を辞めました。

 

その後は介護とは関係のない仕事をしながら音楽活動を続けていきました。活躍の幅を広げ、ドキュメンタリーなどの楽曲も提供するようになったかんのめぐみさん。

 

しかし、介護の仕事を辞めてから、逆にお年寄りのことを考えるようになり、あるオーディションでも「お年寄りの歌が多いけど、今は介護の仕事はしていないんですね」と言われて考えが変わったそうです。

 

現在は介護の仕事にパート職員として復帰し、音楽活動も精力的に行っています。

 

香川県を中心に活動していますが、近年では関西や東京などでも活動を広げているかんのめぐみさん。

 

「吉川美津子のくらサポラジオ」というラジオ番組のオープニング曲、エンディング曲に自身の曲が

使用されたりと、確実にステップアップを果たしています。

 

さらに活躍の領域が広がっていくことは間違いないと思います。

 

2017年から「歌で紐解くアナザーストーリー」という企画ライブを香川県で開催しています。介護に関係のある人をゲストに招き、聴衆と共に音楽などを交えながら、その人の歴史やドラマを探っていくという企画です。イベントのクオリティの高さからかなりの好評を得ています。本人はこのような企画を県内外でどんどん広げていきたいと語っています。

 

あくまで介護の世界と音楽の世界をつなぐことに専念しているかんのめぐみさんです。このようなイベントを自ら行うというところが、本当に行動力があり尊敬します。音楽を通じて人と人をつなぎたいとも語っています。

 

これからも香川県を中心に、県内外でも人間のドラマや人間の歴史、温かみ、思いやり、優しさを聞く人に届けてくれると思います。これからのかんのめぐみさんに皆さん、注目してください。体調にだけは本当に気をつけて、これからも聞く人を感動させて欲しいです。香川県を本拠地にしながら、他の地域でも人気者になって欲しいです。

戯曲「クレアの幸せ」

本日刊行になった『短編小説 風雪の愛』のサブストーリーです。

よろしければ、お楽しみください。

 

☆☆☆☆☆

 

 

1)クレアの幸せ①

 

主要登場人物

クレア・レイニー・ユキ・モーア・マリア

 

20161221

 

ある宿屋にて

 

クレア「やっほー! レイニーいる!?」

レイニー「どうして俺がここにいることが分かったんだ!?」

クレア「この宿に入っていくのが見えたのさ!」

レイニー「……」

クレア「今日、暇!?」

レイニー「……え? まあ家庭教師はないけど……」

クレア「じゃあ、私ん家来て!」

レイニー「……え?」

クレア「いいから早く!」

 

10分後 クレアの家にて

 

クレア「3日ぶりだね、私ん家来るの!」

レイニー「……」

クレア「レイニー、私のこと、苦手でしょ!?」

レイニー「え!?」

クレア「隠さなくてもいいよ! 私、そんなのすぐわかるから!」

レイニー「いや……苦手じゃなくて……その……」

クレア「じゃあ質問変える! ユキのことどう思ってんの!?」

レイニー「え!?」

クレア「ユキのことだよ!」

レイニー「ユキは……いい人というか……」

クレア「それだけ!?」

レイニー「……それだけだ……」

クレア「だったら、施設にいたイケメンの性格いい人、ユキに紹介してもいい!?」

レイニー「え!?」

クレア「すっごいいい人! ユキとなら幸せになれるだろうな~」

レイニー「それは……ダメだ!」

クレア「……なんで、止めるの!?」

レイニー「……いや、その……」

クレア「く~! じれったいな! ハッキリ言いなよ!」

 

5分後

 

クレア「好きなんだったらなんで告らないの!?」

レイニー「……いや、別に……」

クレア「さっきの施設の人は嘘だけど、このままじゃ~ホントに誰かに告られちゃうよ~! あの子、モテるんだから!」

レイニー「……」

クレア「ホント、ウブなんだね! 勇気だしなよ!」

レイニー「……ユキは王子様を待ってるから……」

クレア「王子様!? ……ああ、なんか聞いたことあるな!」

レイニー「クレアさんも知らないのか!?」

クレア「その『さん』っての、これからは禁止ね! 深くは聞いたことないけど、昔助けてくれた『王子様』を探してるっていうのは聞いたけどね……」

レイニー「じゃあ、その人と……」

クレア「レイニーはそれでいいの!?」

レイニー「……」

クレア「あのさ~大事なのは他の人がどーかとかじゃなくて……レイニーがユキのこと好きかどうかじゃない!?」

レイニー「……」

クレア「まあ、しょせんその程度だったってわけか……」

レイニー「違う! 俺はユキを愛している……ユキが一日中頭から離れない……」

クレア「……だったら、いいじゃん! その想い大事にしなよ!」

レイニー「明後日、ユキの教会に行こうとしてた……」

クレア「明後日!? 明日じゃダメなの!?」

レイニー「明後日はユキの誕生日だから……」

クレア「あ! そうだった! ダメだ……ずっと施設にいたから、お祝いしたことなかったんだ……でもよく覚えてるね! スゴイよ!」

レイニー「俺と同じ誕生日なんだ……」

クレア「これまたスゴイや! 運命だよ、それ!」

レイニー「……ユキは大丈夫かな?」

クレア「だから言っただろ? ケロっとしてるって!」

レイニー「……」

クレア「じゃあ、明後日、告るんだね!?」

レイニー「……いや、告白は……」

クレア「く~! だんだん腹立ってきた! レイニーはどうしたいの!?」

レイニー「……ユキと一緒にいられれば、それでいい……」

クレア「ふ~よくわからないね……でも、いつまでもそんなんじゃだめだよ!」

レイニー「……分かってる……いつかは……」

クレア「ユキには花を贈ればいいよ!」

レイニー「花……」

クレア「なんか、花が大好きらしくてさ……それであんな仕事してんの!」

レイニー「花か……」

クレア「そうそ!」

レイニー「クレアさん……いや、クレア……ありがとう」

クレア「どうしたの!? 急に改まって……」

レイニー「いや、クレアは俺よりずっと昔からユキのこと支えてくれてたんだな……ありがとう……」

クレア「ぷっ! それって、ユキの恋人みたいなことばだよね!」

レイニー「いや! 違う! 正直なことばだよ……」

クレア「まあ、いいや! こっちこそありがと! ユキ、レイニーに再会できて、ホントに嬉しそうだったよ!」

レイニー「俺がクレアを苦手だったのは……ユキと仲良しだからだよ……」

クレア「うん!?」

レイニー「なんか、ユキのこと、俺より知ってる人が……なんかうらやましかったんだ……」

クレア「大変な人ね……これからライバルがどんどん現れても仕方ないよ!」

レイニー「え!?」

クレア「嘘ウソ! まあ、ユキは私の親友だからね! ユキがいないと、私だって独りぼっちなんだよ!」

レイニー「……」

クレア「ユキを生き返らせてくれて……ありがと!」

レイニー「いや、別にあれは俺の力じゃ……」

クレア「うんうん! でも、誰にお礼っていいか、わからないから、とりあえず、レイニーにお礼言っとくよ! ありがと! ユキが生き返らなかったら……」

レイニー「……」

クレア「私もレイニーと同じことしてたさ……」

レイニー「クレア……」

クレア「ユキが笑顔でいてくれるのが、私の幸せだからね……ふ~っ、さっきの撤回ね! 私の親友はユキとレイニーだけだから!」

レイニー「俺も入れてくれるのか……?」

クレア「もちろん! これからも3人で仲良くしようね!」

 

20161222

 

ユキ「クレア……ちょっと、付き合ってくれない!?」

クレア「どうしたの!?」

ユキ「明日、レイニーの誕生日なんだ! プレゼント買いたいんだよ~」

クレア「いいよ! 近くでバザーがあって、珍しいものが買えそうだから、そこ行こうよ!」

ユキ「うん!」

 

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マリア「もう、あのバカ息子は……さっさと告白すればいいのよ……」

モーア「あなたの息子さんですよ……」

マリア「もう奥の手を使うわ!」

モーア「奥の手!? え!? ダメですよ! それは現世とあの世をつなぐ石! それはいざというときにしか使ってはいけません!」

マリア「いざというときじゃない!」

モーア「……」

 

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10分後

 

ユキ「あ! この本いいかも! なんも書いてない本! レイニーは本好きだけど、こんなの持ってないんじゃないかな!?」

クレア「へえ、珍しいね……日記にでも使うのかな……?」

ユキ「これにしよう!」

 

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マリア「ユキちゃん! ナイスなものを選んだわ! これに息を吹き込もう!」

モーア「もう……どうなっても知りませんよ……」

マリア「あ」

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ユキ「あれ? 1ページ目に何か文字が書いてある……なんて読むの?」

クレア「『あ』だね……不思議な本だね……『あ』しか書いてない本って……」

ユキ「これにしよう!」

 

10分後

 

ユキ「せっかく、プレゼント買ったけど、レイニーどこにいるかわからないや……」

クレア「大丈夫! また、ぽわ~っと現れるよ!」

ユキ「そうだよね! うん! また会える気がする!」

 

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マリア「上手くいったわ! さあ、これでレイニーに告白するまで頑張ってもらうわ!」モーア「……」

マリア「まずは、『邪悪なる光の石』を壊してっと……あと、ユキちゃんには病気になってもらうわ!」

モーア「マリア様が恐ろしい……」

 

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教会にて

クレア(ユキとレイニーが結ばれますように……)

 

 

2クレアの幸せ②

 

主要登場人物

クレア・レイニー・ユキ・モーア・マリア

 

201724

 

教会にて

 

ユキ「……ただいま」

レイニー「……おかえり?」

ユキ「ごはん食べた?」

レイニー「ああ……ユキは?」

ユキ「私も食べてきた! じゃあお風呂沸かすね……」

レイニー「……」

ユキ「どうしたの?」

レイニー「……なんか、元気ないな?」

ユキ「え!? そうかな!?」

レイニー「いつもの笑顔と違う……」

ユキ「……」

レイニー「何があったんだ?」

ユキ「……」

レイニー「……まあ、何もなかったんなら、いいけどさ……」

ユキ「レイニーには何でもわかっちゃうんだね……」

レイニー「……何があったんだ?」

ユキ「……誰かに後をつけられてる気がする……」

レイニー「え!?」

ユキ「さっき、クレアの家に行くときも、ここに帰ってくるときも……誰かに後をつけられてる気がするんだ……クレアがその辺を探ってくれたんだけど……誰もいなかった」

レイニー「……」

ユキ「あ! でも、勘違いだと思う! それよりお風呂……」

レイニー「……花売りはしばらく辞めたらどうだ?」

ユキ「それは嫌! 私、何もしてない方が嫌……」

レイニー「……」

ユキ「……ごめんなさい」

レイニー「……じゃあ、俺も明日から一緒に花売りするよ……」

ユキ「え!? いいよ、夜の家庭教師の準備があるでしょ?」

レイニー「別に大丈夫だよ……朝早く起きるから!」

ユキ「……」

レイニー「うん?」

ユキ「えへへ……じゃあ、お願いする!」

 

201725

 

街で花売りをするユキとレイニー

 

レイニー「どうだ? つけられてる感じはあるか?」

ユキ「うんうん! 今は大丈夫!」

レイニー「……そうか」

子ども「お姉ちゃん!」

ユキ「あ! この前の子だね!」

子ども「お姉ちゃんにもらった花、お母さん喜んでくれてたよ!」

ユキ「ホント? よかった……」

子ども「これ! お母さんがお姉ちゃんに手紙書いたの! 今、読んで!」

ユキ「え……?」

レイニー「……」

子ども「『今』、読んでよ~!」

ユキ「……」

レイニー「……」

子ども「何だよ! もういいよ!」

ユキ「あ……」

レイニー「……」

 

夜、教会にて

 

ユキ「あの子、傷つけちゃった……」

レイニー「違うよ! あれは行き違いだ! 向こうも知らなかったんだし……」

ユキ「……文字が読めるようになりたい」

レイニー「え……」

ユキ「私、もう危険じゃないかもしれないけど……文字は読めないまま……それがずっと嫌だったの……」

レイニー「……」

ユキ「ダメ?」

レイニー「いいよ……特訓しよう!」

ユキ「え……今から? いいよ……レイニー、昼も夜も働いて疲れてるでしょ、明日でも……」レイニー「『今』したいんだよ……」

 

10分後

 

レイニー「……」

ユキ「ごめん……私、バカでしょ……」

レイニー「いや、俺の教え方が悪いんだ……ユキはバカじゃない!」

ユキ「うんうん……私がバカだからいけないの……私が文字を読めたら、人を傷つけないで済んだのに……」

レイニー「あれはだから……『行き違い』だよ! 本当にバカなのは……マルクとか、ジャックとかみたいな奴らだろ?」

ユキ「……」

レイニー「有能な人材じゃなくてもいい! 俺は、幹部試験に最年少で合格したけど、幸せにはなれなかったよ? 本当に頭のいいひとは、自分も幸せで、他人も幸せにできる人じゃないのか……?」

ユキ「……」

レイニー「……一度しか言わないから……俺はユキといれて幸せなんだ……だから……明日また頑張ろう!」

ユキ「……うん……ありがと……明日また頑張ろ!」

 

20172678910

 

昼間はユキとレイニーで花を売り、夜はレイニーが家庭教師に帰ってきた後で、文字の読み書きの練習をするが、一向に上手くいかない。

 

2017211日 夜、教会にて

 

レイニー「じゃあ、これは?」

ユキ「『あ』かな……?」

レイニー「これは『え』だ……うーん……」

ユキ「ごめん……私がバカだから……」

レイニー「バカじゃないって言ってるだろ? 疲れてるんだよ、少し休もう……」

ユキ「うんうん! 続ける! それより、レイニー、どうしたの? そのメガネ?」

レイニー「いや……最近、目が悪くなっただけだよ……」

ユキ「クレアが似合ってるって言ってたよ?」

レイニー「……そうか」

ユキ「はい、次の問題だして!」

レイニー「なあ……いいのか?」

ユキ「うん?」

レイニー「ストーカーがいるかもしれないのに……こんなことしてていいのか?」

ユキ「こんなことって! 私にとっては大事なことだよ!」

レイニー「わかってるよ……けど」

ユキ「わかってない!」

(沈黙)

レイニー「なあ、文字が読めなくたっていいじゃないか……もっと別の生き方だって……」

ユキ「それは文字が読める人の言い分!」

レイニー「……そんなに怒るなよ……俺だって、必死にユキのことわかろうとしてるんだから……」

ユキ「……」

レイニー「やっぱり、警察に行った方がいいんじゃないか?」

ユキ「いいよ……ハッキリした証拠もないし……」

レイニー「けど……」

ユキ「レイニーは心配しすぎ! はい、次!」

レイニー「……もうやめだ……」

ユキ「え……?」

レイニー「文字の練習はストーカーを捕まえた後だ……それまで……こんなのんきなことしてられないよ……」

ユキ「……」

レイニー「……」

ユキ「!!」

レイニー「ユキ! 何してるんだ? やめろ!」

ユキ「本なんかなかったらいいのに……こんな本……」

レイニー「やめろ! 本に八つ当たりすんな!」

ユキ「本なんか……大っ嫌い!」

レイニー「いい加減にしろ! 本が好きか嫌いかは読めてからにしろ! 文字が読めないくせに!」

ユキ「……」

レイニー「あ……ごめん……」

 

ユキは教会の部屋から出ていって、号泣する。レイニーはなだめようとするが……

 

レイニー(? 人影……)

レイニー、人影についていく。

 

レイニー「おい! ユキをつけてただろ? 誰だ?」

 

人影が姿を現す。

 

レイニー「……」

 

クレアの家にて

 

クレア「やっほー! って……レイニーだけ……?」

レイニー「ちょっといいかな?」

クレア「いいよ! 今、テレビ見てただけだし!」

レイニー「……」

クレア「暗いね……」

レイニー「色々あったんだけど……大きく言ったら2つ……」

クレア「マシな方から聞こうか?」

レイニー「……ユキを泣かしちゃった……」

クレア「!? それがマシな方? 何があったの?」

レイニー「ユキに『文字が読めないくせに』って言っちゃったんだ……」

クレア「……レイニー、目つぶって?」

レイニー「え!?」 

 

レイニー目をつぶる。そこへクレアの平手打ちが飛ぶ。

 

レイニー「……」

クレア「他の人ならいいけど……ユキ、そんなの慣れてるから……けど……」

レイニー「……」

クレア「レイニーには言ってほしくなかったな!」

レイニー「……ごめん」

クレア「私に謝ることじゃないだろ? で、もう1つは?」

レイニー「……ストーカーが見つかったんだ……」

クレア「え? いいことじゃない! で、警察に突き出したの?」

レイニー「いや……」

クレア「は?」

レイニー「あのストーカーの正体は……俺だったんだ……」

クレア「はぁ?」

レイニー「昔、本で読んだことがある……勇者は自分の感情を人の形にして、分身にすることができたんだ……怒りの感情で攻撃の魔法が使える分身を創ったり……悲しみの感情で人を癒す回復の魔法が使える分身を創ったり……」

クレア「うんうん」

レイニー「で……俺の感情が独り歩きして、ユキのストーカーを創ってしまったんだ……俺が……あまりにユキのことが心配だから……」

クレア「……」

レイニー「俺の分身は本体の俺に見られたことで、もう消えたけど……俺は、心配なんだ……ユキのことが……」

クレア「……分かったよ……レイニーがユキのこと、どんだけ思ってるかは分かった……けど……もう少し、信じてあげたら?」

レイニー「信じてるよ!」

クレア「いや、信じてないな……レイニーはユキにびくびくしてる……いつか、嫌われるんじゃないかってね!」

レイニー「……」

クレア「ねえ、どうしてユキが文字を読みたいって言いだしたか知ってる?」

レイニー「子どもを傷つけたから……」

クレア「それもあるけど……ユキはレイニーと同じ世界を見たかったんだよ! レイニーは本が好きだから、自分も本を読めるようになりたかったんだよ……」

レイニー「……そうだったのか……そんなことも知らずに……俺……」

クレア「でも、レイニーの思いは……ちょっと重たすぎるけど、本物だったってことは、ユキにも伝わってると思うよ! レイニーだって、ユキの見てる世界を見たかったんだろ?」

レイニー「え?」

クレア「あのメガネ……度がキツイ奴だよね? 昔、施設にそういうメガネしてた子がいたから、わかる! あんな度がキツイメガネかけて……レイニー、別に目も悪くないのに……」

レイニー「……」

クレア「あれで本を読んで、文字が読めない人の気持ちを理解したかったんだろ?」

レイニー「……まあ、うん」

クレア「行き違いだね!」

レイニー「……」

クレア「さあ! さっさと帰った! 帰った! 仲直りしてきな!」

レイニー「ありがとう……クレア」

クレア「大丈夫だよ! 昔言っただろ? ユキの笑顔が、私の幸せなんだよ!」

レイニー「……」

クレア「ユキを笑顔にしてあげて!」

 

クレアの家の玄関にて

 

クレア「ユキがもう1つ言ってた!」

レイニー「何を?」

クレア「レイニーのことばは美しいし、優しいけど……時々本当の気持ちが分からなくなるって! 本音が聞きたい! って言ってたよ!」

レイニー「……」

 

教会にて

 

ユキ「どこ行ってたの? 心配してたんだよ! もう帰ってこないかと……思っちゃった」

レイニー「ごめん……」

ユキ「私、レイニーに捨てられたら、どこにも居場所がないもん……」

レイニー「ごめん……ストーカーを捕まえてきたんだ……」

ユキ「え!?」

レイニー「近くに住んでいる若い男だった……もう警察に突き出したから大丈夫だよ……これで安心して、文字の練習ができる……」

ユキ「……もういいよ」

レイニー「え……?」

ユキ「……書けるようになったから……」

 

ユキ、「レイニ」と紙に書く。

 

レイニー「これ… …?」

ユキ「さっき、練習してたんだ……これだけ書けたら、もう満足!」

レイニー「ユキ、自分の名前も書けるのか?」

ユキ「うんうん! これだけ!」

レイニー「…………」

ユキ「これで仲直りだね……?」

レイニー「ごめん……あ、ちょっと散歩してきていいか?」

ユキ「え……?」

レイニー「帰ってくるから! ちょっと、考え事だよ!」

ユキ「わかった……いってらっしゃい!」

 

夜、就寝する前の時間、ベッドにて。

 

ユキ「私、窓側って初めてだね!」

レイニー「そうだな……」

ユキ「ねえ、手見せて?」

レイニー「え? ああ……」

ユキ「あの時と同じ……靴貸してくれたときと同じきれいな手……」

レイニー「よせよ……照れるよ……」

 

ユキ、レイニーの左手の傷痕に気づく。

 

ユキ「!!」

レイニー(まずい……)

ユキ「……」

レイニー「昔、だよ……へゲル団にいたときにつけたんだ……今は……やってないよ……」

ユキ「……」

レイニー「……」

ユキ「隠し事するのは仕方ないと思う……けど、一度言ったことばは元には戻らないよ……」

レイニー「……」

ユキ「信じるよ?」

レイニー「……ごめん、さっき外でつけたんだ……」

ユキ「……」

レイニー「……ごめん」

ユキ「手見せて!」

レイニー「え?」

ユキ「私はレイニーの苦しみは理解してあげられない……一生無理だと思う……」

レイニー「……」

ユキ「けど、こうやって手握ることはできるから……」

レイニー「……」

 

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マリア「ダメね……あの子、もっと強くならないと!」

モーア「次は何をされるんですか……?」

マリア「モーア! 私のために動いて!」

モーア「はぁ……」

 

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201742日 レイニー、家庭教師の帰り道にて

 

レイニー「……?」

モーア「レイニーだね?」

レイニー「誰だ?」

ザリア「ごめんなさいね……」

レイニー「?????」

ザリア「さあ、言って? あなたは誰のために生きてるの?」

レイニー「……ザリア様です……」

モーア「さあ、行こうか? 君が強くなるための、壮大な物語の始まりだ……」

 

『短編小説 風雪の愛』が予約刊行されました!!

『短編小説  風雪の愛』が予約刊行されました。

2017年12月23日にリリースされる予定です。

 

『短編小説  風の少年』、『短編小説  雪の少女』に続く第三弾で完結編です。

 

ファンタジーの香りをさせながら、愛について徹底的に書いた作品です。

 

宜しければお願い申し上げます。

 

https://www.amazon.co.jp/%E7%9F%AD%E7%B7%A8%E5%B0%8F%E8%AA%AC-%E9%A2%A8%E9%9B%AA%E3%81%AE%E6%84%9B-%E5%92%8C%E6%B3%89-%E6%95%8F%E4%B9%8B-ebook/dp/B077FXS8R7

11月3日、ライブを行いました!!

去る2017年11月3日に香川県丸亀市のルフランというピアノ喫茶でライブをさせていただきました↓↓↓↓↓

 

2017年11月3日 - YouTube

 

聞いてくださった皆さん、ライブを運営されたルフランの皆さん、こんな不埒な人間と競演していただいた中村さん、そして全てのご縁をつないでくださった岡田さん……ありがとうございました!!!!!

 

またの機会があれば、宜しくお願いいたします☆

 

Amazonの著者ページを作成しました。

Amazonにてこれまで出版してきた本のまとめページ(著者ページ)を作成しました。是非ともご活用ください↓↓↓↓↓

 

Amazon.co.jp: 和泉敏之:作品一覧、著者略歴

基本的なコンピュータ用語のまとめ

基本的なコンピュータに関する用語をまとめました。基礎中の基礎ばかりですが、是非ともご参照ください。

 

・ハードウェア:パソコン本体やディスプレイなどのパソコンを機能させるための機器の総称。

 

・ソフトウェア:パソコンを稼働させるための手順書のこと。プログラム。

 

クラウド・コンピューティング:ネットワーク上にあるデータやソフトウェアを取り出して活用すること。また、クラウド上で共有もできる。

 

・デバイス:入力装置と出力装置。

 

・ユニット:制御装置、演算装置、記憶装置

 

・外部インターフェイス:パソコンの外部にあるコネクタUSB2.0ポートやLANポートなど。

 

・ビット(b)コンピュータ上の「0」と「1」のデータを表現するための最小単位。

※1B=8b、1KB=1024B、1MB=1024KB、1GB=1024MB、1TB=1024GB

 

・OS:パソコンを起動させるためのソフト。WindowsLinuxUNIXなど。

 

・アプリケーション:パソコンを使用してある目的を達成するために使用するソフトウェア。アプリ。

 

ブラウザー:インターネットを表示するためのアプリケーション。

 

IPアドレス:ネットワーク上の住所。割り当てられることを変更することが可能なので、「論理アドレス」とも呼ばれる。

 

・サーバー:ほかのコンピュータからの要求に応えるためのコンピュータやプログラム、ソフト。

 

ドメイン名:URL(Uniform Resource Locator)上の組織名以下の部分。

http://jacker1223.hatenadiary.jp/の場合、jacker1223.hatenadiary.jp/の部分。

 

参考文献:

株式会社トリプルウィン (2015) 『パソコンのしくみ』新星出版社

声を聴かせて

小説家になろう」に投稿した短編小説です。是非ともお楽しみ頂けましたら幸いです。

 

syosetu.com

 

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声を聴かせて

 

第1章 転校生

 

 4月7日。高校二年生の春がやってきた。俺は一年前、家の一番近くにあるこの学校を選んだ。進学率は結構よく、大学進学を目指す学生がほとんどで占められている学校だ。俺は二年生になった。一年のときに進学コースを選び、そこでは三年間クラス替えはない。いつもと同じメンツで、いつもと同じような他愛もない話で教室中が満たされる。

 始業式の日、担任が発表された。去年と同じ渡辺先生だ。理科の若い教師で、生徒からの信望は厚い方だ。俺はあまり彼とは話したことはないのだが。

 始業式が終わって、クラスに戻ってきた。渡辺先生が話し始めた。「今日から二年生だ。進学コースは一年も二年も三年も関係なく、受験生だから心して日々を送れ」いつもと同じ説教臭い語りだ。

 しかし、今日は様子がいつもと違った。渡辺先生が一通りの「説教」を熱弁した後、静かに告げた。「実はこのクラスに転校生が入ることになった」クラス中はざわめいた。去年と同じ顔触れのところに「新人」という新しい風が入ってくるのだ。皆、この宣告に歓喜の様子だった。「さ、入って」渡辺先生がいつになく丁寧な口調で言うと、1人の女子生徒がクラスに入ってきた。

 だが、クラスの皆はこの転校生の様子が変だということにすぐに気づいた。教室に入ってくるときもユラユラして、目をずっとつぶっている。俺は出席番号が二番だから、前の方に座っていたのだが、すぐにこの弱弱しい転校生の右手に棒のような何かがあるのに気づいた。

 渡辺先生が「さ、自己紹介して」と言うと、この何者かもわからない存在が静かに口を開いた。「相沢瑠奈といいます」その声は、ボリュームは小さいが、ふと何度も聞きたくなるようなきれいな声だった。髪は肩の長さくらいで、童顔だった。背も低い。相沢瑠奈と名乗ったこの少女は何かしどろもどろしていた。転校生というだけで、注目の的になり、平静ではいられないが、この少女は何か特別なものを持っているようだとクラス中が察していた。

 渡辺先生が少し力を入れて喋りだした。「えー、この相沢瑠奈さんは目が見えない」クラス中がざわつくのを、俺は前の方の席から感じた。「通常は養護学校に行くことになっていたのだが、どうしても進学がしたいということで、この学校に入った。この子のことをどうか、しっかりサポートしてやってくれ。いいな?」渡辺先生はそれを言い終わると、この転校生の手を紙コップを握るようなくらいの感覚でゆっくりと持ち、俺の前の席へと誘導していった。

 相沢瑠奈。このときは、この転校生が後に俺にある「ドラマ」を見せてくれるとは思いもしなかった。いや、クラス中、日本中でもそんな未来予測ができる存在なんていなかっただろう。しかし、それは先の話だ。

 渡辺先生がプリントを配る。俺の列の一番前、つまり相沢には手にしっかりと渡し、他の生徒には少し乱暴に手渡していた。後ろから、俺は好奇心旺盛のまなざしで相沢を見つめていた。しばらく相沢はプリントを握ったままだ。後ろから見ると、何か確認しているようにも見えた。そして数秒後、俺の方を振り向き、右手でギュっと握ったプリントを差し出した。差し出したというより、空中に置いたというべきだろうか。俺は少し戸惑ったが、すぐにプリントを受け取った。俺にプリントが無事に渡ったのが分かると、相沢は少しはにかむような笑みを見せた。俺は小さな声で「どーも……」と言った。誰にも気づかれないように目を横にだけやると、クラスメイトが苦笑いをしていた。俺は直感した。この相沢瑠奈は、これからつらい日々を送るだろうと。そして、そのしわ寄せとして、プリントを毎回大事そうに受け取らなくてはいけないのが俺だ。このときは仕方ないな……としか思えなかった。

 

 4月8日から授業が始まった。ここからが大変だ。教師は盲目の生徒に慣れているようには見えず、皆相沢に視線をやりながら授業をしている。小柄で声の小さい女の先生は、これでもかという位大声で授業をした。俺は後ろの席から相沢を見つめた。手は少ししか動いていない。それはそうだろう。ノートなんか取れないんだから。先生たちは相沢の近くに陣取り、授業をするようになった。先生たちも困惑している様子が見て取れる。それは俺だけじゃない。クラス中の皆が感じていることだということにもすぐに気づいた。

 しばらくは何もなかった。相沢はやはりというべきか、クラスでは完全に浮いていて、休み時間もずっと独りだった。俺は後ろの席の宇野という仲の良い男友達といつも喋るのだが、横で寂しそうに座っている相沢がみじめでならなかった。(おい、女共。誰か声をかけてやれよ……)俺はそう思ったが、その期待に応えてくれる女子生徒はいなかった。皆、一年ののときに出来たグループに固まって楽しくおしゃべりをしている。

 このクラスは進学クラスだから、休み時間の雑談の中にも進学の話が出てくる。「え? 大阪大学狙ってるの?」「昨日は勉強できなかった」女子生徒は「普通」の女子高生がするような会話より、自分たちの進学先のことで夢中のようだった。

 俺もその一人だ。俺は両親は健在なのだが、親は家ではいつも勉強の話ばかりしてくる。最初は子どもらしく、嫌々ながら付き合っていたが、その毒にだんだん侵されるから不思議だ。俺は勉強のことばかり考えるようになった。実を言うと、俺はこの進学クラスの中でも優秀な方だ。成績はトップクラス。体育だけは、幼少期からの運動音痴で克服できていないのだが、それ以外の通知表は五段階評価で4を下回ったことがない。俺は有名な大学に入りたいと思っていた。そうして、有名な会社に入る。それこそが幸せな人生だと信じていた。いや、信じ込まされていた。誰もそれに対して批判してこないのがその証拠だ。

 俺は学習態度も悪くなく、授業はきちんと聴き、ノートもしっかりと取る。そして、家に帰ったら、そのノートを「清書」する。これがその日の復習だ。そして、次の日の授業のめぼしを立てて、自分でノートを作る。これが予習だ。この三段階ノート方式で、俺は成績優秀な栄誉を守ってきた。他の友人にはこのやり方を薦めたことはない。いや、言いたくないのだ。これは俺だけの魔法の勉強法で、真似されると俺の特権が脅かされる。俺は成績優秀な自分に浸っていた。

 だからと言って、クラス委員位選ばれるようなリーダー性は俺にはなく、ただクラスでは影の薄い優等生だった。中学のときは、放送部に入部して、全国大会を目指した。しかし、中学三年間で賞を取れたことすらない。俺は三年の最後のコンテストの落選を聞いて、方を落とした。そして、その代替物として、勉強という生きる術を選んだ。中学の学習内容なんて、教科書を読めば、すぐに理解できた。それで、この学校に入学し、進学クラス選抜テストにも合格して、今に至る。俺は勉強という味方をつけて、友人にも囲まれ、順風満帆な日々を送っていた。

 4月10日、この日は春休み課題確認テストの日だった。俺は準備は万全で、コンディションも完璧な状態で家を出た。しばらく自転車で学校へ向かっていると、相沢がいた。あの始業式の日に見た棒は杖だったらしい。杖をつきながら、懸命に歩いていた。俺は相沢が自分の家の近くに住んでいたのか……と思う位で、もちろん話しかけやしない。俺は相沢の横を自転車で通り過ぎた。相沢ももちろん声をかけやしない。誰が通ったかなんてわからないんだから。

 春休み課題確認テストは国語・数学・英語の三教科で五十分ずつ行われる。テストが始まると、皆俺の方に注目した。いや、俺ではなく、俺の前の席を見ていた。相沢がいない。クラス委員になった山内が監督の教師に尋ねた。「相沢さん、どうしたんですか?」監督の教師は「相沢さんは別教室で試験だ」と淡々と告げた。ふーんと言う声が聞こえた。俺はそんなやりとりと耳を立てて聞きながら、国語の漢字ドリルに目をやっていた。

 テストが終わると、この日は午後から授業だった。午後から相沢が戻ってきた。いつもと同じ、独りぼっちで一日を送っていた。(お前からも声をかけろよ……)俺はそう思ったが、そんなことを口にするほど、おせっかいではない。

 4月11日。学校が始まって最初の週の終わりを告げるこの日。朝のショートホームルームで昨日のテストや結果が早くも帰ってきた。俺は学年で三位の成績だった。満足感に浸っていた。一位は決まっている。山内だ。彼女はいつも俺より先を進んで勉強している。すでに教師たちから推薦の話も入ってきているらしい。ショートホームルームが終わると、俺は山内のところへ行った。だが、山内は下をうつむいていた。「どうした?」と聞くと、山内は黙って下をうつむいたまま成績表を俺に押し付けた。結果は学年二位だった。いつも彼女が一位のはずなのに、おかしい。このクラスはある意味特権階級だから、このクラス以外で一位が出るとは思えない。しかし、そんな輩は検討がつかない。

 俺は何故か直感した。すぐに自分の席に戻り、後ろから相沢の机を盗み見した。偶然成績表が見えた。「一位」という文字が光っていた。相沢が一位だったのだ。俺は腹立った。俺はいつも二位で、山内がいつも一位という特等席がまさかこんな新入りにつぶされるとは……。

 一時間目の授業が終わって、休み時間のときにすぐに俺は山内のところへ行った。「相沢さんが一位らしいよ」そのときの山内の表情は言語では表現できない。恐らく、負けた……という言葉で脳が支配されていたのだろう。

 そこからクラスの女子たちの行動が変わった。授業中も教師に「もっと早くしゃべってください」とにらみつけながら告げるようになった。教師たちは相沢を見た。山内の仲の良い女子友達が言った。「このクラス、特進なのに他のクラスより授業の進度が遅いらしいですよ! そんなんじゃ勉強できない!」気の強い女子生徒たちの脅しにも似た願いに、教師たちは従うしかなかった。教師たちは口調を速めて受業を始めるようになった。

 クラスの女子たちは皆、山内のグルだった。山内が一位でなければならないのだ。山内はクラス委員で、成績もトップ。このクラスの代表なのだ。それがあのわけのわからない転校生のせいでかき乱されるのが苦痛でたまらないようだった。俺は相沢を見た。前は手を少し動かしていたのだが、もう動きをやめたようだった。

 俺の一声で始まった一部の女子生徒たちの陰鬱な雰囲気はすぐにクラス中に蔓延していった。体育の授業は、相沢は見学をしていたのだが、女子生徒が体育教師にかみついた。「どうしてあの子だけ特別扱いするんですか? クラス皆で楽しくやりたいのに、嫌です」体育教師は困った表情で言う。「あのな~ 相沢は目が見えないんだ。無理に決まってるだろう?」女子生徒たちは面白くないように、ふんと言って、体育教師の元から去った。

 七時間目、英語の授業の最初のときに、山内が英語教師に言った。「先生、毎回単語テストしましょうよ? そうしたら、皆の成績も上がりますよ!」英語の教師は女の少し天然の教師で、山内の提案にすぐに「いいわね」と言った。山内の言う「皆」に相沢が含まれていないのは理の当然だ。

 最初の週が終わった。4月12日の土曜日、俺は部屋の机の上で少し考えた。(相沢、これからどうなるんだろう?)しかし、すぐに(俺には関係ないか……)と思い直した。そして、問題集を開いて、勉強を始めた。土日は誰にも会わず、一日中部屋で勉強した。

 4月14日、次の週がやってきた。俺は教師に入り、自分の席に座ると、いつもと違う、いやいつもより陰湿な雰囲気を感じた。女子たちがひそひそ話をしている。俺はよく耳を集中させた。その中身はほとんどが相沢のことだった。(ズルして一位になったんじゃない?)(あの子のせいで、授業が遅れるのよ)嫌な感じがした。俺の席から聞こえるから、前に座っている相沢にももちろん聞こえているだろう。しかし、相沢は身動き一つ取らず、席に座ったままだった。相沢の表情がどんな風なのか見たかったが、そこまで女子たちの肩入れをするわけにはいかなかった。俺は厄介なことに巻き込まれたくないのだ。

 俺の頭の中にある言葉はこれだ。「いじめ」。ここは高校だ。これが発覚すれば、停学処分にもなる。将来にも影響するかもしれない。俺はそんな面倒なことには巻き込まれたくない一心で、傍観することを決めた。

 授業はほとんどの授業で最初に小テストが設けられ、俺たちはそれをこなしていった。教師たちも苦肉の策だったのだろう。授業が遅れる代わりに、テストで代案とする。なんとも情けない方法だが、これしか「進学クラス」の面子を保つ方法はないのだろう。

 その週はずっとそんな感じで続いた。休み時間は女子たちのヒソヒソ話。授業は小テストから始まって、前よりテンポの速い授業。しかし、これが進学クラスの宿命なのだ。勉強で存在を証明できなければ、アイデンティティはない。それは俺にもよくわかっていた。

 4月17日の昼休み、これがターニングポイントだったのだろう。相沢は杖をつきながら、教室から出て行った。女子たちが楽しそうに言っている。「トイレ行ったよ!」「早くやろう!」すると、俺の席から見えたのは、山内とその仲間が何かを相沢の机の上に置いている光景だった。山内たちが去った後、俺は後ろの席から相沢の席を見つめた。割りばしを折って、それをセロハンテープでくっつけて形にしている。俺はよく見た。「クタバレ」と書いてあった。俺は鳥肌が立った。女子というのは、こんなに恐ろしいものなのか。いつこんな面倒な物を作ったのだ。これまではただの「出来事」で済んだのが、これでは「事件」に近づくじゃないか。しかし、俺は厄介なことには巻き込まれたくない一心で、何も見ていないふりをした。

 相沢が杖をついて戻ってきた。よろよろしながら、席に座ると、机の上の物を触っているように見えた。そして、しばらく動きが止まった。恐らく何が書いてあるのかを理解したのだろう。相沢はやはり動かなかった。しかし、俺には小さな声で相沢がつぶやくのが聞こえた。「……くたばれ……」俺は初めて相沢の真の声を聞いた気がした。弱弱しい、何かに頼りたいのだが頼れないような声。それがこんな状況で出てくることになるとはなんとも皮肉だが、俺はもちろん声をかけもしないし、何も言わず、ただ教科書を見つめていた。

 俺はこのとき予感していた。中学のときもあったのだ。そう「いじめ」が。俺の予測通り、次の日、相沢は学校を休んだ。

 

第2章 声を届ける人

 

 4月18日。担任の渡辺先生は何もないかのようにショートホームルームを終わらせた。その後、呼び出された生徒もいない。相沢は病気か何かで休んだことになっているのだろう。いや、俺の考えすぎかもしれない。本当に相沢は体調不良で休んだのかもしれない。とにかく、俺の気にすることではない。

 放課後のショートホームルームが終わると、俺は渡辺先生に呼び出された。山内をはじめ、女子たちの視線が俺に集まってくる。俺は職員室に連れていかれた。俺は何もやっていない。そして、「いじめ」のオキテ通り、告げ口をするとアウトだ。俺は何もないということで貫こうとしていた。

 しかし、渡辺先生は予想外のことを口に出した。「相沢さんの家へ今日の日課表を届けてくれないか?」そうだ。このクラス。いや渡辺先生のルールなのだが、誰かが休んだら、その生徒の近くに住む生徒がその日の日課表を届けることにしている。俺は安堵した。それくらいなら、帰り道にでも寄ってやろうと感じた。渡辺先生は相沢の住所を教えてくれて、「頼んだぞ」と言ってきた。何も裏では起こっていないのを俺は確信した。

 その後、教室に帰ると、俺は山内たちに囲まれた。「何言われたの?」女子たちは半ば恐怖、半ば好奇心の声で俺に聞いてきた。俺が日課表のことを言うと、「なんだ~」と言って、山内たちは俺から離れて行った。俺も安心したのは事実だ。

 しかし、ここからが大変だ。相沢の家に行くには良いが、もし保護者が出てきたらどうしようか。相沢は保護者には「いじめ」のことを言っているのかもしれない。すると、俺が代表のような形で保護者から叱責されるのは目に見えていた。俺は日課表が入ったクリアファイルを相沢の家の郵便ポストに入れることを決めた。

 相沢の家の前に着いた。俺の家よりは古い家で、というより築何十年だろうというような家だった。俺は郵便ポストを探した。ない。玄関まで行くと、ドアの横に郵便入れがあった。そこに日課表を入れた。誰も出てこないのを確認してから、俺はそそくさとその場を去ろうとした。すると、玄関が開いた。まずい。俺は泥棒が逃げるように後を去ろうとしたが、玄関から出てきた人物と対峙してしまった。

 相沢だった。相沢は少し痩せたような気がした。俺が「ああ、日課表。内のクラスでは、休んだ人の家に日課表を送るようになってるんだ……」俺がそう言うと、相沢は笑顔を作った。純真な笑顔だった。学校ではひどい目に逢わされているのに。そして、俺もその共犯者、いやその原因を作ったのは俺なのだ。しかし、相沢は笑ったまま、「ありがとう……」と小さな声でつぶやいた。

 その日はすぐに家に帰った。そして、勉強を始めた。しかし、勉強をしても、頭の中にはあの相沢の笑顔が映った。(どんな気持ちなんだろう? 目が見えなくて、しかも学校ではいじめられて……進学したいって言ってたよな……でも、無理だよな……)俺はそんなことを考えながら、問題を解く。しかし、頭から相沢の笑顔が離れない。俺は呪われたような気がして、その日はベッドに入って行った。

 4月19日と20日の土日はいつものように勉強ができた。相沢のことなんて考えてもしなかった。俺は相沢に支配されたのではないかと、昨日は思ったが、そうではないらしい。今まで話したことのない転校生と話した刺激が脳に伝わっただけなのだ。俺は安心して、勉強した。

 次の週。4月21日。この日も相沢は学校を休んだ。しかし、一日は何事もなかったかのように過ぎて行った。教師たちも安心したような様子で、「普段」のペースで授業が出来ていた。山内はじめ女子たちはそれに満足そうだった。彼らはきっと、このクラスから相沢瑠奈という宿敵を追い払ったことに満足しているのだろう。俺にとって、相沢は何か? 考えたが、何でもなかった。相沢はただの転校生で、俺の前の席に座っていて、目が見えない。それだけだ。そんな相沢がいないクラスも日常とは何も変わらず。俺は淡々と授業を聞いた。

 放課後、再び渡辺先生から日課表が渡された。渡辺先生が言った。「相沢さんには会ったか?」「いえ……」「そうか……どうも体調が悪いらしい ……しばらく休むかもしれないな……悪いけど、お前が毎日日課表を届けてくれるか?」「はい、それくらいなら……」俺は優等生らしく振る舞い、職員室を後にした。相沢は何も言っていないらしい。それを教室に戻って山内たちに伝えると、山内が言った。「やったー! このまま、来なかったらいいのに……」相沢が来なかったら、このクラスはどうなるのだろう? 恐らく何も変わらない。いや、それどころか平穏な日々が送れるのだ。それは俺にも分かっていた。だから、俺は菜にも批判できずに、山内たちに相槌くらいはして、その場を去った。

 相沢の家に着くと、相沢が家の前にいた。花に水をやっている。見えているのだろうか?「あの、これ……日課表……」相沢が俺の声に気づくと、俺の前にゆっくりとやってきて、またあの笑顔を見せた。俺はこの笑顔に何かわからないものを抱いた。俺はすぐにわかった。そうか、これが感情なのか。俺は勉強ばかりで疲れていたのだ。感情を忘れたロボットのようになっていたのだ。クラスを見渡しても、ロボットばかり。教師たちも予備校のようなロボット授業。こんな毎日に疲れていたのだ。俺はこの柔らかい感情を抱いて、口を開いた。

「このまま、学校来ないの?」相沢はしばらく下を見つめた。しばらく沈黙が続いた。沈黙を破ったのは相沢だった。「私が来ない方が、いいでしょ?」俺は肯定も否定もできなかった。俺は共犯者、そして「いじめ」のきっかけを作った人間だ。どちらかというと、山内サイドにいる。しかし、どうしたんだ? この腹の神経が痛むような感覚は?

「大学、行きたいの?」俺は静かに口を開いた。正直、ここまで相沢と話ができるなんて思わなかった。しかし、相沢は不思議な雰囲気を持っていた。こちらが安心して言葉を発することのできるような態度を持っていた。力強い笑顔ときれいな声。これが女子たちにも伝わればいいのに……俺はそう感じた。

「行きたい……私、教師になりたいの」意外だった。学校にも身体障碍を持つ教師はいるあら、それが不可能ではないことは知っていた。しかし、今の段階では無理だろう。

「ごめんね、こんなこと言われても困るよね?」相沢は静かだが、意外と言葉をきちんと発することに気づいた。俺はそれを感じながら、相沢としばらく話したいと思った。「どうして教師になりたいの?」 再び黙り込んだ。そして、口を開いた。俺は妙なことに、この相沢のワンテンポズレる感覚にも違和感を感じなくなった。

「私、目が見えないから……そんな弱い人たちの支えになりたいの……勉強だけじゃなくて、きちんと『生きる』っていったら大げさかな? そんなことを教えられる人になりたいんだ……」俺はさっき考えたことを再び脳裏によぎらせていた。勉強だけじゃない。そう、この相沢はロボットを生産するのではなく、人間を育てたいと言っているのだ。俺はそのときの感覚で深く同意し、「そうか……」と言った。

「明日も来ないの?」しばらくの沈黙の後、相沢は言った。「多分……」俺はなぜか寂しさを感じた。相沢がいなくて平和じゃなかったのか? どうして相沢が来ないと寂しいのだ? 俺は訳が分からなくなった。相沢は喋りすぎたとでも思ったのか、口に手をやった。俺はそれがシグナルだと思い、その日は別れを告げた。

 部屋の中で、相沢のことを考え続けた。かわいそうだという感情が大きかった。しかし、どうして、俺がそんなことを思う? 俺にとって相沢は何でもない「空気」じゃなかったのか? 俺は厄介なことには巻き込まれたくない。勉強もして、山内ほどではないけど、良い成績を取りたい。しかし、今の山内を見るとどうだ? 汚い。醜い。山内と相沢を比べてみた。相沢は目が見えないだけで、生きる上での試練を神に渡されて、それでも一生懸命に生きようとしている。そして、自分のような弱き者たちの味方でありたいと言っている。一方の奴は弱い存在を連携して排除している。どちらが人間として優れているかなんて一目瞭然だ。

 俺はしばらくベッドの上で考えた。そしてすぐにボイスレコーダーに手が伸びていた。

 

 4月22日、今日も相沢は来なかった。クラスの大半の連中は相沢の存在なんて忘れてるようだった。放課後、日課表を受け取ると、今日は教室には帰らず、すぐに相沢の家に行った。

 相沢の家に着いた。誰もいなかったので、呼び鈴を鳴らした。(親が出てきませんように……)そう願ったのが功を奏したのか、相沢が出てきた。いつものような笑顔で手を前にかざした。俺から日課表が与えられると思ったのだろう。俺は日課表は渡した。しかし、もう一つ違う物を渡した。

「この重たいものは……CD?」「CDは聞ける?」「うん、できるけど……」

 しばらくの沈黙の後、今度は俺から沈黙の封を切った。「今まで授業で習ったことを家で録音したんだ。これ聞いたら、今まで授業でやったことはほとんど復習できる」

 相沢はしばらく黙り込んだ。「これも家の近い人の仕事になったの?」俺はマズイと思った。相沢に気を使わせてしまう。俺は本当のことを言った。「いや、俺が個人的にやってることだけど……」言った後で、これまたマズイと思った。

「あ、ごめん……迷惑だよな?」すると相沢は笑顔を取り戻し、少し戸惑いながら、「ありがとう……」と言った。相沢をよく見た。童顔だが、きれいな整った顔をしている。つぶった目から少し涙がこぼれそうになっていた。俺は訳が分からなくなって、「じゃあ、また明日!」と言ってその場から逃げた。

 

 4月23日、やはり相沢は学校へ姿を現さなかった。いつも通り、俺は授業を真面目に聞いて、放課後、日課表を受け取った。

 それから相沢の家に行った。いつも17時ごろに相沢の家に行くのだが、今日は相沢が玄関の前で待っていた。俺は日課表とCDを渡した。

 相沢は少し申し訳なさそうな表情をしていた。「ごめん…… 迷惑かな?」「うんうん。嬉しい。本当にうれしいけど、君に申し訳ないなと思って…… 手間かけさせて……」「いや、これをやった方が俺の勉強の定着にもいいんだ。復習できるというか…… でも、別にこれで相沢に学校来てくれって言ってるんじゃないから! 自分のペースで勉強しな! ってことで……」

 相沢の目からはまた涙が流れていた。「ありがと…… ありがとう……」なんどもお辞儀をしながら、相沢は俺に礼を言った。

 

 俺は家に帰って、前に言った復習と予習を終わらせてから、自分の声をボイルレコーダーに録音して、それをCDに焼くという作業をしていた。これがしばらく続いた。最初は大変だった。学校に来ていない相沢でもわかるように、一生懸命わかりやすい解説を心がけた。参考書にアンダーラインを引いて、そこを自分なりのわかりやすい言葉に置き換えた。一日1教科を終わらすのに、一時間はかかった。俺はすっかり夜遅くまで起きるようになっていた。

 相沢は相変わらず学校に来なかったが、俺はこの「声を録音する作業」が楽しくなっていた。誰かの役に立っている。俺は今までにない高揚感のようなものを感じていた。相沢の家に行くと相沢が待っているという日々が続いた。そしていつも涙を流しながら、俺のCDを受けとる。この間、俺は一度も「学校に来て」とは言わなかった。

 一度俺は相沢に聞いたことがある。「俺のCDちゃんと聞いてくれてんの?」相沢はすぐに、少しムッとした表情で言った。「聴いてるよ! 過去完了はhad+動詞の過去分詞でしょ?」きちんと聞いてくれているようだ。俺は安心した。

 ある日、相沢は俺に尋ねた。「夢はないの?」唐突に聞かれた俺は恥ずかしくなった。ただ、自己効力感のために勉強してきただけなのだ。そんな俺に夢なんてない。「君、教師になったら? いい声してるし、わかりやすいし!」教師か……俺は今までそんなこと考えもしなかった。「私と違って、頭も良いし……」俺は首を横に振った。俺の顔は真っ赤だった。何か言いたかったが、しどろもどろの声しか出せず、それに相沢は笑った。相沢の笑顔は素敵だが、こんなに笑うとは思わなかった。俺は相沢とそのくらい仲良くなっていた。

 教師を目指すのならば、相沢と同じ夢を持つことになる。俺は悪い気がしなかった。それどころか、相沢と同じ大学に通えるかもしれないという希望を持った。俺は胸の辺りがいつも痛かった。これが4月から5月まで続いた。俺は何を目指していたのだろうか? 俺は何のためにこんなことを続けているのだろうか? 俺にはわからなかった。ただ、これ、つまり相沢に声を届けることが日課になっていただけだ。これが俺の「当たり前」だった。この「当たり前」がずっと続けばいいのに……それくらいしか、俺は考えていなかった。そんな「当たり前」がゴールデンウィーク前に壊れた。

 

 第3章 パンチ

 

 5月1日。俺はこの作業がいよいよ楽しくなった。弱い者の味方というのはスゴイ存在だと思っていた。自分にはそんな存在になれるなんて思わなかった。いや、今までそんな機会などなかった。だが、今、俺は相沢という弱い存在を助けている。俺は相沢の喜ぶ顔を考えながら、今日も自分の声をボイスレコーダーに吹き込んだ。

 5月2日、相沢の家にやってきた。だが、今日は相沢がいなかった。呼び鈴を鳴らすと、しばらく応答がなかった。まずい。やりすぎたか……。それとも、親に相沢が言ったのか? 色々と考えていたら、玄関が開いた。

 相沢はいつもの笑顔ではなく、曇った顔つきをしている。沈黙。しかし、いつものことだ。俺は日課表とCDを渡そうとした。だが、相沢は日課表のクリアファイルをしっかりと自分の手で認識すると、CDはこちらへ向きだしてきた。

 どうしたんだ? CDはやはり迷惑だったか? そう落胆のような感覚に陥っていると、相沢が静かにしゃべりだした。

「もう、CDはいらないよ……」「え……?」「私、学校辞めることになったの。このままじゃ、単位も危ないし、高卒認定試験受けることにしたの……」

 どういうことだ? 今まで俺がしてきたことは無駄になるのか? 俺はパンチを食らった気分だった。不意の一撃だった。俺はすぐに次の言葉が出ていた。

「学校、戻ってきなよ! もうあいつら、ひどいことしないよ……」「そんな保証なんてないよ……」「だから、授業はいつも通りやって、俺がいつもCD持ってくるから……」「そんなの君に悪いよ!」

 相沢はしっかりとCDを俺に手渡し、家の中に入ろうとした。次の瞬間俺の口から、いや心から言葉が飛び出した。

「好きだ! 好きだから、いなくならないでくれ!」

 相沢の後ろ姿は一瞬動きをなくしたが、すぐに玄関は閉じられた。

「相沢……瑠奈……」俺は相沢のパンチを受け止められないまま、ただ誰もいない場所で一人肩を落とした。

 

第4章 声を聴かせて

 

 ゴールデンウィークが終わった。俺はゴールデンウィークの間、抜け殻のようだった。何もする気が起きない。今までの生き甲斐が全てつぶれたと思った。

 5月7日、学校へ行った。俺は自分の机の上にある物にすぐに気づいた。今まで相沢に届けたCDの山が入った袋だった。

 俺は意味が分からなかった。すると、山内が俺のところへやってきた。「このストーカー!」俺は太陽が落ちてきたのかと思った。ストーカー? どうして俺が?

「相沢さんの家にいつもこれを届けてたんでしょ? 相沢さんが言ってたよ! このストーカー!」山内はすぐに自分の席に戻った。

 すると、山内の隣の席に相沢が座っていた。相沢は無表情のまま、山内に何か言われてるのを聞いている。

 裏切られた。俺はダシに使われたのだ。俺にストーカーをされたという名目で、相沢は山内たちを味方につけ、学校へ帰還した。俺はどうなる? 今までの俺の努力は? 

 相沢は弱い存在じゃなかったのだ。いざとなったら、自分だけの脚で立ち上がれる強さを持っていた。それを俺は今まで妨害してきたんじゃないか? 俺は相沢が自分で学校へ戻ってくるまで待つべきだったんじゃないか? 

 そして俺は自分に酔いしれていた。弱い者の味方ということで、自分自身の存在意義を保っていた。俺は天罰を受けたのだ。調子に乗っていた天罰を受けたのだ。しかし、このメラメラと炎のように湧き上がる感情は何だ。裏切りだ。俺は相沢に裏切られた。そうとしか思えなかった。

 

 その日は、授業が終わると、すぐに学校を出た。教室を出る際、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。女の声だったから、俺の悪口だったのだろう。それを深く追求することなく、俺は教室から逃げ出した。こんな教室にはいられなかった。

 家に帰って、俺は袋からCDを取り出した。そしてそれを聞いていった。俺の声だ。紛れもない俺から相沢へ向けた声だった。しかし、それを今は俺が俺自身で聞いている。こんな空しいことなんてあるか?

 涙が出てきた。今までの努力が水の泡になったこともそうだが、相沢と過ごした玄関での思い出がよみがえってきた。俺は一体何だったのだろう?

 ランダムにCDを聞いていって、最後に渡したCDは全て聞こうと決めた。何時間も自分の、自分へ向けた声を聞いている。空しい。悲しい。俺の声が途切れ、そのCDの中身はお終わった。だが、ここで異変に気づいた。しばらく沈黙が続いている。おかしい。俺はCDを取り終わると、すぐに録音を辞めるはずだ。こんなに沈黙があるのはおかしい。しばらく不可思議な気持ちで待っていると声が聞こえてきた。相沢の声だった。

 

「〇〇君、昨日は驚かしてゴメンね。でも、こっちも驚いたよ。うんうん。ホントはずっと前から気づいてた。〇〇君が私のこと好きだってこと。私ね、目が見えないおかげで、耳がよく聴こえるの。〇〇君の声、いつも震えてた。〇〇君、私のこと好きなんだって気づいた。でも、その話をしたら、今までの関係が壊れると思って、言えなかった。……私、学校へ戻ることにした。〇〇君が励ましてくれたから、自分の力で立ち上がることにしたよ。一緒に教師の夢叶えようね。最後に……もしよかったら……これからも、君の声を聴かせて……」

 

副担任 加藤美緒

先日、ある新聞社の小説一般公募に応募し、ボツになった原稿です。この原稿も世に出してくれないと成仏できないと言ってくるような気がしているので、ここに載せます。

 

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 私の名前は加藤美緒。この春に地元の教育学部を卒業し、新米英語教師になったばかりだ。幼い頃から教師になりたいと思っていて、採用試験に合格した日は涙があふれた。しかし、私が赴任したのは、地元の荒れた公立の中学だ。この荒れた中学で一番荒れている学級3年7組の副担任をすることになった。「若い女性の教師はなめられますから、覚悟をしてやってください」赴任した日に山田教頭に言われた言葉がこれだ。私には希望があった。自分がどれだけ通用するのか見極めたいと思っていた。

 しかし、その希望は時間が流れるにつれ、絶望へと姿を変えていく。副担任をしている学級の生徒からは呼び捨てで「加藤」と呼ばれ、私の言うことは全く聞こうとしない。担任は体育科の合田先生。柔道部の強面の男性教員で、どの生徒からも恐れられている。私が副担任をしている学級の生徒からも特に恐れられていた。合田先生は学級では独裁者のように振舞っていた。

 毎日、休む時間もなく業務が続く。毎日3時間程度の英語の授業を行い、1時間はアシスタントとして、他のベテランの先生の授業に入る。この学校はどの学級も荒れているので、私の授業を生徒は聞こうとしない。それに対して、他の先生たちから私へ指導が入る。「もっと規律のしっかりした授業をしてください」このような他の先生からの叱責を毎日受ける。この学校で大事なのは「なめられないか、どうか」だった。生徒からなめられなかったら、その教師は「良い先生」になる。私はそれが「良い先生」の定義として正しいのか疑問には思っていた。しかし、私は結果を残せないでいた。

 この学校式の「良い先生」の観点からすると、私は「ダメな教師」だった。私は生徒を叱ることができない。生徒が怖かった。生徒から呼び捨てにされる度に、自分の中にある砦を壊されていくような感じがした。

 特に自分が副担任をしている学級の生徒からはなめられた。授業を始めると、四十人いる生徒が全員私語を始める。もはや「私語」と呼べるかどうかもわからない。私は怒鳴りつけることができないので、「静かにしてください」と少し大きな声で忠告するだけだ。もちろん誰もそんな弱弱しい私の声を聴こうとはしない。私の自尊心は傷つけられる毎日だった。

  五月、授業でなんとか成果を出したいので、英語の授業で音楽を聞かせることにした。副担任をしている学級で洋楽を流し、その歌詞を読み取る授業をした。生徒は全員ではないが、私語をやめ、少し興味が見せているように見えた。私は(やった)と思った。これをきっかけにして、自分なりの授業、もっと言えば、自分なりの教師生活を満喫しようと思った。

 その放課後、山田教頭に応接室に呼ばれた。私の授業で流した音楽がうるさいというクレームだった。教頭は長い時間にかかって「ホウレンソウ」の大切さを説いてきた。「授業で音楽を流すのは勝手だが、それは他の先生も生徒も全員が納得しなきゃいけない。そんなこともあなたは分からないのか? あなたは大学で何を学んできたんだ?」私は涙を少し流しながら、応接室を出た。せっかく自分の生きる道を見つけたと思っていたのだ。それすら崩されてしまった。もう私にはなんの道も残されていない。私は極限まで追い詰められていた。

 職員室に戻ると、そこで他の教師が私のことを噂してるのを聞いてしまった。(あの先生、本当にダメだよね……)(あれは一年もたないな……)私はそれに反論する術を持っていなかった。(私はだめなんだ……私には教師の素質がないんだ……)そう思うと、みじめになってきて、職員室の自分の机でまた、泣き始めてしまった。他の教師の笑い声が聞こえた。

 私は泣きながら、生徒の日誌を見ていた。この学校では、副担任が担当する学級の生徒の日誌を点検することになっている。コメントと言っても、1~2行くらいなのだが。放課後、日誌にコメントを書いて、次の朝に生徒に渡す。このような雑用は副担任の仕事なのだ。担任の合田先生は学級で独裁者のように振る舞い、学級を完全に自分の意のままにコントロールしていた。それについていけない私は、合田先生という独裁者にとっては、反体制の一部なのだ。合田先生からは毎日のように放課後、叱責を受ける。今日も合田先生が私の机にやってきた。「あんたみたいな仕事ができない教師とコンビを組んだのは、教師生活で初めてだ」と怒鳴りつけた。他の教師がいる前で怒鳴りつけなくてもいいのに……と思ってしまう。しかし、その原因を作っているのは私だ。私がもっとしっかりしていれば、誰も怒らなくて済む。私は私という人間が嫌いになっていた。何も価値のない存在だと思っていた。

 私の不毛な教師生活はなおも続いた。私の授業は誰も聞かないし、仕事はできない。それでいて放課後、合田先生からの忠告が続く。それでも一所懸命に仕事をしようと自分では踏ん張った。だが、誰もそれを認めてくれない。この学校には味方は誰もいなかった。私は自分がどうして生まれてきたのか不思議に思ってしまった。

 六月、その後の私の教師生活を大きく変える事件が起きた。私が副担任をしている学級での出来事だ。私の授業中、学級で一番力が強い男子生徒が少し興奮気味だった。私は心底それを恐れていた。(どうか何もしませんように……お願いだから)私はただ怯えるしかできなかった。

 その生徒が授業中であるにも関わらず、自分の席を離れた。それに対して、他の小柄な生徒が突っかかっていった。この小柄な生徒もやんちゃな子だった。「おい、席に座れよ」小柄な生徒が言った。強い男子生徒は「うるせーんだよ、チビ」と叫んでいた。私は「静かに……席に戻って」と小さな声で言った。この強い男子生徒の力の欲望を刺激したくなかったのだ。そして、私に力の矛先が向いてくるのを阻止しようとしていた。私は心底教師失格だと、その2人の生徒を見ながら思った。

 すると、その強い男子生徒がいきなり小柄な男子生徒に殴りかかった。小柄な生徒はうまくよけたが、2人は戦いを始めてしまった。私の恐れていたことの中で、最も最悪なことが起きたのだ。私は2人に駆け寄り、「やめて、やめて……」と言い続けた。私は2人の間に入っていったが、2人の興奮は頂点に達していた。幸い、隣の学級の男性教師が騒ぎを聞いて、この学級へと入ってきた。その男性教師によって、2人は止められた。

 授業終了後、私は応接室へと呼ばれた。向かい側には山田教頭と合田先生が座っている。「あんたがなめられてるから、こんなことが起きるんだ。今回の事件はあんたのせいだ」合田先生が大声で叫んだ。学校中響くのではないかという位の大声だった。「はっきり言います。あなたには教師の資格はない。ここが公立の学校じゃなかったら、すぐにでも辞めてもらうくらいだ」山田教頭が淡々と私を責めた。私は何もが終わったと思った。私はこれで踏ん切りがついたという安心感さえも感じていた、明日、校長先生に辞表を出そうと決めた。

 私が職員室に戻ると、群がっていた教師たちが急に自分の机に戻った。おそらく、私の噂話をしていたのだろう。クスクスと笑う声も聞こえてきた。しかし、もういいのだ。これ以上苦しむ必要はない。私は教育の世界で必要とされなかっただけなのだ。私はもう教師としては存在価値が何も残されていない。私は全てをあきらめた。

 最後の仕事が始まった。副担任をしている学級の生徒の日誌にコメントをつけるのだ。私は例の戦いを始めた強い男子生徒の日誌を見た。それにコメントを残した。「このままではあなたは社会に出ることは許されない。あなたは自分のしたことを後悔しなくてはいけない。私は明日教師を辞めて、自分のふがいなさの責任を取ります。あなたも自分の責任の取り方を考えて。今までありがとう……」このように1~2行を超えたコメントを残した。その日は、私はそそくさと学校を後にした。これ以上、職員室に自分を佇ませるのが苦痛でならなかった。

 次の日がやってきた。私は胸ポケットに辞表を入れていた。校長室へ行き、辞表を取り出した。横田校長は何も言わなかった。おそらく、仕方ないことだと思ったのだ。これでいいのだ。私の希望の教師生活は、希望という理想を追求し続けた結果、滅びという形で終わった。

 しばらく、校長室で待機だった。すると、突然合田先生が入ってきた。合田先生から最後の叱責が来るのだろうと思っていた。しかし、それもこれでラストなので、何も気にしないと覚悟はできていた。

 合田先生は何か悲しそうな表情を浮かべている。しばらく沈黙が続いたが、合田先生がその沈黙を破った。「例の喧嘩をした生徒……彼があんたのことを『良い先生だ』と……」私は何が何だかわからなかった。「あんたの日誌のコメントに感動したらしい。それであんたを辞めさせるなと……あんたが辞めるのを止めるのが、自分の責任の取り方だと言っている……今までも騒いで悪かったと……」私は予想外の展開に何も言えなかった。いや、自分の頭の中には言葉が何千もうごめいていたのだが、それを整理して外に出すことが出来なかった。しばらくして、横田校長が戻ってきた。横田校長が言った。「もう少しがんばってみないか? 加藤先生は一所懸命だ。それが生徒に伝わることもある」私は涙を流し始めた。

 私は休み時間に、自分が副担任をする学級へと足を運んだ。例の戦いを行った2人の生徒が仲よさそうに喋っていた。私に気づくと、2人とも照れ臭そうに笑っていた。そして、会釈をしてきた。私も笑顔で会釈を返した。

 七月、一学期が終わろうとしている。私は結局教師を辞めなかった。私には生徒という味方が出来た。私を認めてくれる味方が出来た。私を必要としてくれる味方が出来た。終業式が終わって、私は誰もいない学級へと足を運んだ。私はこれからも副担任として生き続ける。

物語としての授業――トマシェフスキーのモデルを援用して

私の最近の家庭教師における授業の実践報告モドキをしたく思います。

 

授業の構成として有名なものは「導入―展開―まとめ」でしょう。

 それに類似したものとして、世阿弥の芸術論である「風姿花伝」では「序―破―急」という構成が有名です。

 

私が普段実践している授業の構成は、物語論のトマシェフスキーのモデルを援用したものです。

 

授業も、単なる「プレゼン」ではなく、ドラマ性を重視した「物語」であるべきだという信念を、私は最近抱いているため、彼のモデルを援用しています。

 

トマシェフスキーによると、物語の構成は以下のようなものになるようです。

 

・発端状況

・山場

・波乱

・緊張

・クライマックス

・結末

 

これを援用して、ある日の高校生(3年生)に対する英語の家庭教師の授業を紹介したいと思います。

 

授業の目標:

(1)本文の内容を理解する。

(2)本文の英語を再生できるようにする。

(3)本文から問いを創造する。

 

・発端状況(Introduction)

 何気ない雑談から、本日の学習題材へとつなげる。

 

・山場(文章の鑑賞)

 教科書本文の鑑賞を行います。この際、日本語訳(explicature)は先に配布しておき、言外の意味(implicature)を解説しながら、本文の深い読解を試みます。

 

・波乱(音読)

 教科書の内容理解(explitcatureとimplicatureの把握)が完了したら、教科書本文の音読を何度もこなします。単純なRepeat→Buzz Reading→Read & Look upを何度も繰り返して行い、教科書本文の自己再生を目指します。

 

・緊張(暗写)

 教科書の口頭による再生がある程度めどがついたらそれを「書ける」ようにします。教科書本文の音声を聞いて、それを暗記できるよう心がけます。そして、そのまま何も見ずに書けることを目指します。いわゆる「ディクトグロス」のもどきだと考えて頂ければわかりやすいと思います。

 

・クライマックス(問いの創造)

   最終的に教科書本文を自分の「もの」にしたら、本文における「問い」を発見させます。これは、将来自分で問いを創ることのできる学習者を育てることを目指して行っているクライマックス的な活動です。これまで生まれた問いには、「この英文の真の意味は何か?」といったものから、「この登場人物の性格は?」や「このスピーチはどこで行われているのか?」などの物語性を重視した問いまで、色々ありました。

 

・結末

 今回学んだことを教師と生徒の対話によって、ふりかえります。

 

個々で重要視しているのは、ゴールがあってそれに向かうという「仮説検証型」の授業ではなく、学んでいるうちに、問いを生徒に発見させる「課題探求型」の授業を心がけていることです。

 

およそ8年間教育の仕事をしてきて、たどりついた私の「授業の型」が以上のものです。まだまだドラマティックに展開できるような改良はできるでしょうが、概ね好評なので、今回ご紹介した次第であります。

 

参考文献:

志村宏 (2011) 『風姿花伝講談社学術文庫

ジャン=ミシェル・アダン 著、末松壽・佐藤正年 訳 (2004) 『物語論白水社