人気ブログランキングへ

風と雪

和泉敏之のブログ

文化と第2言語習得論ーー批判的応用言語学を手がかりに

最近興味を持っている批判的応用言語学の中から「文化と第二言語習得論」の関係について論じたものをまとめました。今回使用したテクストはPennycookによる”critical applied linguistics”です。自分のためのメモ代わりに内容をまとめ、自分なりの解釈を追加しました。私はこの分野に関しては素人ですし、拙い翻訳力による誤解を恐れます。間違いがありましたら、是非ともご指摘よろしくお願い申し上げます。

 

<批判的応用言語学とは?>

本書では、この分野のことを以下のように定義しています。

 

It is concerned with questioning what is meant by and what is maintained by many of the everyday categories of applied linguistics: language, learning communication, difference, context, text, culture, meaning, translation, writing, literacy, assessment, and so on (p. 8).

 (翻訳)

それ(批判的応用言語学)は応用言語学の多くの日常的な分野によって意味され、維持される事柄について疑問符を打つことに関心を持つ。例えば、言語、コミュ二ケーションの学習、差異、コンテクスト、テクスト、文化、意味、翻訳、書くこと、読むこと、評価などである。

 

 

 

つまり、批判的応用言語学は従来の応用言語学とは異なる地検に沿った記述を心がけているということです。言語学やその周辺領域を(外国語)学習に「応用」させるのみならず、その背景にある現象にまで目を届けることを試みます。

この中から、今回は特に私の探求している「文化についての『批判的な』考察」に特化してまとめたいと思います。

 

<差異、アイデンティティ言語学習>

 

SLA is seen as “an institutional phenomenon shaped by cultures and structures at work in educational systems.” (p. 144)
(翻訳)
第二言語習得論は教育的な制度範囲内での活動における文化と構造によって形作られる組織的な現象と見なされる。


第二言語習得論とは、言語に特化した実験や研究などを行うイメージがあり、文化や当事者たちをはじめとしている「我々」が置かれている「構造」にまで目を届けませんか? という提案です。

 

ここで注意しなければならないのが「文化」に関する概念です。これは文化人類学社会学などの分野で長年議論されてきた概念ですが、未だに「これこそが文化だ」という答えに至っていないのが現実です。それを踏まえて、本書では以下のようなことが述べられています。

 

And when students are described in cultural terms, this tends to be done in terms of an “archaic view of culture” in which a fixed profile of particular traits for a particular cultural group. (p. 145)

(翻訳)

そして学習者が文化的な用語で表現されるとき、特定的な文化的集団bにとっての特定の性質の固定的な経歴という「古典的な文化の見方」という用語で行われる傾向がある。

 

 

 

 

「文化」と聞くと、例えば日本人ならば伝統芸能などの「伝統」やアニメ・ゲームをはじめとした「サブカルチャー」を想起する人が多いかもしれませんが、文化には「人々の間で伝染し、学習によって身につけられる『癖』」とでも言えるような構築的な概念でもあります。

 

Identities and difference are multiple, diverse, and interrelated. (p. 146)

(翻訳)

アイデンティティや差異は多数的で、広がりがあり、相互作用的なものである。

 

 

従来、「固定的」とみなされた文化に関係のある概念についてもダイナミックに変容するがものとしてとらえる必要があるのかもしれません。

 

……the context of second language education raises significant issues in the construction and negotiation of identity. (p. 149)
(翻訳)
第二言語教育のコンテクストはアイデンティティの構築と議論における意義のある課題を想起させる。

 

文化とアイデンティティは切り離せない関係にあります。ある文化背景を持つ学習者が別の文化と接した時、「文化の衝突」が起こり得ます。それにより、その学習者も異なる文化のエキスを吸って変容することが考えられます。つまり、アイデンティティの変容です。第二言語習得論はもっとアイデンティティの問題に取り組む必要があるのではないかと考えさせられました。例えば、ある問題ができない学習者ができるようになったときでさえも、その学習者内にはアイデンティティの変容が起きます。「自信がつく」というのはアイデンティティの(初歩的な)変容ではないでしょうか?

 

……engagement with particular languages and cultures must also be about identity formation. Identities or subjectivities are constantly being produced in the positions people take up in discourse. (p. 150)

(翻訳)

特定の言語や文化に従事することはまた、アイデンティティの形成に関してではなければならない。アイデンティティや主観性は持続的に対話の中で人々が置かれる立ち位置によって創出される。

 

 

そしてそのアイデンティティは人々が対話を行う中で断続的に変容していきます。これにより、言語習得による文化変容が頻繁に起こるということです。そもそも「文化」概念が究極的にいうと、「家」に落ち着くのというのが無難でしょうから、教師と学習者におけるインタラクションによっても文化変容は起きるわけです。ここからは私の駄文ですが、従来の一方通行講義型授業のみならず、学習者と課題を発見し、探求していく「対話」も必要ではないかと思います。対話により、学習者の中にある文化は変容し、学習が実りあるものになっていくのではないかとも思いました。

 

……culture is always produced in relations of power. (p. 153)

(翻訳)
文化は権力の関係によって常に生み出される。

 

 

しかし、注意しなければならないのは文化というのは常に権力と深い関係にあるということです。一方的な「文化の押し付け」は権力の濫用につながり、強いては「暴力」につながります。やはり、「まずは公正・公平な対話から」ということでしょう。

 

以上、批判的応用言語学の知見から「文化」についてまとめ、自分なりの理解(誤解).を付け加えました。第2言語習得と文化は接着した関係にあり、また、アイデンティティとも深く関わります。それは対話の中でぐいぐいと変容していくものです。自身の持つ文化背景を保ちながら、様々な文化に接していくことがますます重要になってくると思います。

 

参考・引用文献

Pennycook (2001) critical applied linguistics.—critical an introduction. Routledge.