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風と雪

和泉敏之のブログ

「文化」定義のまとめ

「文化」定義のまとめ

 

  • はじめに

 

地域活性化のための活動が日本全国で盛んになっています。その際、登場するキーワードとして「文化」というものがあります。ふるさとの文化を大切にしようなどのスローガンが聞かれますが、「文化」のそもそもの定義について定まっていない印象を受けます。

 

今回、タイラーによる古典的な文化の定義から始まり、人類学、心理学、そして社会学による主要な文化の定義について振り返る試みを行います。これによって、市井の文化概念に対する関心が少しでも強まることを期待します。

 

  • タイラーによる定義

 

文化の定義はタイラー(1871)が元祖だとされています。彼の著作『原始文化』のなかで、文化は以下のように定義されています。

 

文明ないし文化とは、民族誌的な広い意味において、知識、信仰、伝承、芸術、倫理、法、慣習その他、社会の一員としての人間によって獲得される能力と習慣のあの複雑な総体である。(竹沢、2007より孫びき)

 

ここでは、文化は文明と区別されず、複合的な相対物として捉えられています。この段階ででは、文化におけるメカニズムやシステムがまだ不明瞭だったことが伺えます。

 

  • 人類学による定義

 

日本についての研究書『菊と刀』で知られるベネディクトは『文化の型』でこう語って

います。

 

 人間はだれも、世界を生まれたままの目でみてはいない。人間は慣習や制度や信じ方の、あるきめられた一組によって編集された世界をみているのである。(ベネディクト、米山、2008)

 

 ここでは、世界を見つめる際のフィルターとして、文化的な認識論における定義がなされています。さらにベネディクトは、ステレオタイプなどについての言及し、人間の認識を「文化によるパターン」として考察を広げています。

 

 

  • 心理学による定義

 

一方、心理学では例えば以下のように文化は定義されています。

 

文化とは集団の中で共有されている行動の様式であり、その集団における意味や価値観の体系である。(無藤ほか、2013)

  

ここで心理学に特有と思われる「行動」にまで影響を及ぼすものとして文化が定義されているのが興味深いです。また、「意味」ということばが登場するように、文化をシンボル的なものとして捉える前提があります。しかし、この場合、「文化」はストックとして人間に蓄積されており、極めて固定的な概念となっています。これに対する批判的な考え方である、文化を変容するものとして捉える視点が必要とされます。

 

 

最後に、社会学者であるニクラス・ルーマンによる文化の定義を検討します。

 

相互作用と言葉とを媒介としている必要条件が見出される。そうした必要条件は、具体的なコミュニケーション過程においてすばやい受容とすばやく理解できる受容とを用意している、可能的な諸テーマの一種のストックなのである。こうしたテーマのストックを文化と名づけ、こうしたテーマのストックがとくにコミュニケーションのために保管されているばあい、ゼマンティークと名づけることにしたい。(ルーマン、佐藤、2007)

 

ここではコミュニケーションというシステムが起動した場合において、文化が発生するとされています。特にそれはゼマンティクと呼ばれ、複雑性を縮減するために、可能性から現実性へと結び付けられる意味の総体物のようなものとして考えられています。

 

人間の個体を問題にばかりするのではなく、コミュニケーションを単位としたシステム論的な視点による考察です。私の主観ですが、現在のところ、暫定的で洗練された文化の定義として、私はルーマンのゼマンティク論をよく援用します。

 

  • おわりに

 

いかがでしたか? 文化を「伝統」のような固定的な定義にのみならず、変容するフローの概念として捉えることも必要とされます。特に、価値観の多様性を認める立場に立つのであれば、後者の構築的な文化の見方が必要になってきます。自身らのみを中心におく眼差しは極めて帝国的な価値観で、ときにイデオロギー化したり、差別に繋がったりします。こうした文化観を乗り越えることも必要ではないでしょうか? これで、恣意的に集めた文化の定義のまとめを終わりたく思います。

 

 

参考文献

竹沢尚一郎 (2007)『人類学的思考の歴史』世界思想社

ニクラス・ルーマン著、佐藤勉監訳 (2007)『社会システム理論(上)』恒星社

無藤隆、森敏昭、遠藤由美、玉瀬浩治 (2013)『心理学』有斐関

ルース・ベネディクト著、長谷川松治訳 (2008)『菊と刀講談社

ルース・ベネディクト著、米山俊直訳 (2008)『文化の型』講談社